読んだ本でも紹介するがいや

この春、大学を卒業するのだが、自分は全くと言っていいほど進んで本を読んでこなかった。

文学部に所属している以上、レポートを書いたり、発表をするにあたって書籍や記事などを参考文献として使用したりすることはあったが、それ以外で活字に触れる機会はないに等しい。

 

よくそんなので文学部を卒業できたものだとかえって感心させられるが、ここ数日は打って変わって本にのめりこむようになった。

 

なぜかといえば、あまりにも暇だからである。

 

数日前までは、あまりの金欠に耐えかねて派遣のバイトをしていたが、現場の人間の出来の悪さに嫌気がさして行くのをやめた。

まあ、来週からは本業である飲食の仕事も再開するので、ちょうど良い機会だっただろう。

 

そんな感じで1週間ほどほとんど予定のない期間が生まれたので、いい暇つぶしを探すことになった。

TwitterInstagramをずっと見つめるのにも飽きてくるし、なにより自分より充実した春休みを過ごしている同級生たちの投稿を見ていると、これもまた嫌気が差してくる。

他の人たちの世界に入らないで、自分の中だけで時間を潰す方法といえば、やはり読書に尽きるのかもしれない。

 

ということで、今回はこの数日で読んだ本を紹介していこうと思うが、まず最初に読書を習慣づけようかと思うきっかけとなった一冊から紹介しよう。

 

1.清志まれ『幸せのままで、死んでくれ』2022年、文藝春秋

 

 

 

つい最近発売となったばかりの単行本だ。

「清志まれ」という著者名は聞き馴染みのないものだが、その正体はあの「いきものがかり」のメンバーである水野良樹である。

いきものがかり以外でもHIROBAというプロジェクトを行い活動している水野が、今回新たなペンネームで小説を書き下ろしたのである。

 

「国民的キャスターとして成功を収めた主人公と、売れないミュージシャン崩れの親友。時を経て、二人の人生が再び交錯するとき、主人公には死が迫っていた。「俺はもう、幸せなままで、死ぬよ」彼は、誰にも言えない、たった一つの秘密を親友に託そうとする。」(帯より抜粋)

 

内容としては上にも書いてある通り、主人公はテレビ局のアナウンサーとして国民的人気を獲得し、地位と名誉を得た表舞台に映る「自分」を「幸せ」とする一方で、決して表には出せない「自分」もあることがその幸せを崩してしまう葛藤に悩みながら病に倒れ、死んでいくというものだ。

 

著者である清志まれ、もとい水野良樹は言わずと知れた国民的バンド「いきものがかり」として数々のヒット曲を生み出し、まさに成功を収めた。彼もまた、こうした表舞台に映る「いきものがかりの水野」としての自分と、プライベートな面での自分とのギャップに悩まされることがあったのかもしれない。

本書を読んでいく中で、彼自身が活動していく中で得た知識や経験などが詰まっているようにも感じた。

ストーリーこそフィクションではあるが、芸能界の第一線として活躍してきた彼だから描けられる世界であると思う。

 

はじめこそ、ミュージシャンが書いた小説など大したものではないだろうとたかを括っていたが、読み始めると一気に吸い込まれていった。

複雑な登場人物と時間経過に錯乱してしまうところもあるが、内容的には分かりやすく、作詞などで培った表現力を活かしていると考えられる。

 

などと偉そうに語ってみたが、小説など少ししかちゃんと読んだことがないので、自分にはまともに評論できる力などない。とりあえず良い作品だなと自分の中では思った。

 

それに加え、小説と同時に同タイトルで音楽もリリースされており、こちらもアレンジ面でいきものがかりではないダークな雰囲気を持つ楽曲に仕上がっており、ぜひ一緒に聴いておきたいものだ。

 

youtu.be

 

 

 

2.みの『戦いの音楽史 -逆境を越え世界を制した20世紀ポップスの物語-』2021年、KADOKAWA

 

 

こちらは昨年の5月に発売となっており、私自身も発売からすぐに注文し手元に届いていたが、なぜかずっと放置されたままであった。

それが読書に目覚めたので10ヶ月の時を経てついに表紙を開くこととなった。

 

著者のみのは、YouTubeにて音楽の解説動画を上げる「みのミュージック」を運営するYouTuberである。

www.youtube.com

 

チャンネル登録者は2022年3月現在で35万人を超え、幅広い年代層の音楽ファンに支持を得ている。視聴者の一人に、あのサザンオールスターズ桑田佳祐もおり、彼自身もラジオ番組の中でたびたびみのの動画について言及している。

みのは元々はチャンネル登録者100万人を獲得していたYouTuberグループ「カリスマブラザーズ」の元メンバーで、2019年にグループ解散後、「みのミュージック」を立ち上げた。

以前から音楽の知識に富み、自ら作曲した楽曲なども発表し、ミュージシャンとしても注目を集めていた。

動画内でもロック史の解説や、有名アーティストの解説などを行なっているが、本書では20世紀の「ポップス」の歴史の概要を年代順に追っていくものだ。

 

黒人のブルースから始まり、フォーク、カントリー、ロック、ジャズなど海外の歴史と、それを追うように日本での流行歌、歌謡曲、J-POPの歴史をまとめた一冊となっている。

 

内容自体はかなり浅いもので、音楽に詳しくない人でも入りやすいものに仕上がっている。

YouTubeではかなりコアでマニアックなところも突いてくるので、この本をきっかけに音楽の世界へ(自分のチャンネルへ)引き込もうという意図もあるのかもしれない。

 

ただ、この本の評価は2つに分かれるようで、元からの視聴者からすれば内容の浅さに不満を持つ一方で、音楽に疎い人からはざっくり音楽史を知ることができていいという声もある。

 

私自身は、次の書籍においてもう少しディープなところを探って行ったり、日本の音楽史にフォーカスしたりしたものに期待したい。

 

余談だが、私は大学の授業で「自分が編集者となり、本を作るなら、どの著者にどんな本を書いてもらうか」という課題において、みのに日本のJ-POPをまとめた書籍を書かせたいと発表したところ、それなりに評価を得た。どうでもいい。

 

 

 

3.NATSUMI『大正浪漫 -YOASOBI『大正浪漫』原作小説-』2021年、双葉社

 

最後に紹介するのはこの一冊。

その前に、「YOASOBI」について軽く触れておきたい。

 

YOASOBIのWikipediaを見てみると、

YOASOBI(ヨアソビ)は、ボーカロイドプロデューサーAyaseシンガーソングライターのikura(幾田りら)による2人組の音楽ユニットであるソニーミュージックが運営する小説&イラスト投稿サイト「monogatary.com」に投稿された小説を音楽にするプロジェクトから誕生した。以降、同サイトに限らず様々な小説、タイアップで新たに書き下ろされた小説などから楽曲を発表している。」

とあり、小説をテーマに楽曲を制作していることがユニットのテーマである。

2020年に大ヒットした「夜に駆ける」も、星野舞夜の『タナトスの誘惑』という小説を原作としたものだ。

 

今回紹介する本も、YOASOBIが昨年9月にリリースした「大正浪漫」という楽曲の原作になっている。正確には、NATSUMIの『大正ロマンス』が大元で、本書は楽曲リリースを機に大幅な加筆修正を加えたものである。

youtu.be

 

内容は、2023年を生きる中学生の時翔と、大正時代である1923年の少女千代子が、100年の時を超えて文通を繰り返し、恋心が芽生えるも、関東大震災によって二人の手紙は途絶えてしまうというSFチックなものである。

文体もケータイ小説のような会話の多い、非常に読みやすいものとなっている。

 

なぜこれを手に取ったかというと、最近YOASOBIの楽曲を聴くようになり、中でも「大正浪漫」の歌詞の内容にある、時を超えて手紙を送り合う二人と、ある出来事をきっかけに引き裂かれた運命が気になり、是非とも原作を読んでみたいと思っていたところにある。

 

実際に読んでみると、こうした軽い文体の小説はあまり好みでないことから、大したものじゃないと思っていたが、二人の恋心にちょっとしたときめきを感じたり、曲にはなかった展開などが盛り込まれていたりと、新たな側面から作品に向き合えることとなった。

 

こうした楽曲と小説のフュージョンというのは、前述の清志まれの『幸せのままでー』と同様に、目だけではなく、耳でも楽しめるという点で新たな体験となる。

ドラマや映画に主題歌があるように、小説にも同テーマで楽曲があることで二段階で作品に触れるということは、より一層読者(聞き手)に奥深くまで世界観へと導くことができる。

 

以上が最近読んだ本の紹介となるが、こうしてみると音楽と通ずるテーマのものが多いと感じる。これは自分が普段音楽が好きなところから結果的にそうなったのだとも考えられる。

これからも自分の好きなものにつながる本と出会い、愛読書としてきたいと思う。