趣味

たまに「趣味はなんですか」と問われることがあるが、返答に困るのが大抵である。

 

「音楽を聴くことです」なんて答えても、携帯電話でサブスクなどを利用するのが当たり前になった現代において、音楽を聴くことなど誰でもすることであり、そんなの趣味と言えるのかと疑問に思ったりする。

 

何かスポーツをやったり、バイクでツーリングしたりすることもないし、これといった趣味が自分にはないものだと思っていた。

 

しかし、2年ほど前にバーで飲んでいるときダーツを勧められ、試しにやってみるとこれが意外とハマった。

たまに何か物を投げたくなる衝動にかられるときがあるが、ダーツは先端が尖った物を好きなだけ合法的に投げまくることができる。

狙った番号のところに入ったときの喜びは、なかなか他では味わえないだろう。

 

ダーツと出会ってからは快活クラブに通い詰め、ひたすら投げる練習をして、ついにはマイダーツを持つにまで至った。

快活のカウンターで「マイダーツはお持ちですか?」と聞かれ、「持ってます」とドヤ顔で答え颯爽と自分のダーツを取り出す瞬間は優越感に浸れる。

 

快活で知り合ったダーツの上手いスキンヘッドでデブのおっさん(俺の中ではハゲダルマと呼んでいる)から貰ったタングステン製の本格的なバレルは、自分の実力を倍以上引き出してくれる。

 

少し話がずれてしまったが、要は趣味をダーツと言うようになった。

就活で履歴書に特技・趣味を記入する欄があったが、そこにもダーツと書き、面接官とその話題で談笑したこともあった。

 

実際に今年の2月はほぼ毎日朝から快活へ赴いては投げまくり、自己ベストを更新してきた。有料のアプリに月額何百円で登録し、スコアを記録していた時期もあった。

 

決して初心者の域を脱してはいないが、少しばかり自信も付き、ダーツが趣味だというのを少し誇っていたことも事実だ。

 

とはいえ、飽き性なところもあるので就活やバイトが忙しくなった途端ぱったりとやらなくなってしまった。

それまでは毎日マイダーツをカバンに忍ばせ、思い立ったとき快活にいつでも行けるようにしていたが、いつしか棚の隅でホコリをかぶっていた。

 

「趣味はダーツです」と言えなくなってしまうのもなんなので、今日久しぶりにマイダーツを引っ張り出し快活に行ってきた。

何ヶ月ぶりかもう覚えていないが、投げる感覚はしっかり体が覚えていた。3投目にはブルを射抜いていた。

 

毎日通っていた頃もこうして一人で黙々とひたすらカウントアップをして自己ベスト更新を目指していたが、さすがに集中力が続かない。

隣のブースにカップルがやってきてキャッキャ言いながら楽しそうにハウスダーツで投げているのを横目に見ているうちに、やるせない気持ちになった。

 

やはりバーなどで酒を入れながら数人で遊ぶのが一番楽しいのかもしれない。

これまで道具にこだわったり、投げ方などのスキルを磨こうと思ったりしていたが、結局のところ人と盛り上がれるゲーム性が自分の中でダーツの魅力だと潜在的に思っていたのかもしれない。

 

そのため、今日は30分もやらないうちに店を出てしまった。

また自分の趣味が何なのか分からなくなりかけている。